『ケチ男』を書いてから、印象に残った人物をもう一人思い出しました。
(先に言っておく。私はお客様を客とは呼び捨てにしない主義だ。だが、むかつく奴や危険な奴は別である。そんな奴に『様』なんか誰が付けるか)
その客は、私と仲の良かった美人ホステスさんのお客様に連れられて、来店しました。 
そして、次の日から一日に何度もメールや電話が来るようになり…


ある日、数時間電話に出られなかっただけで、大量のメールと不気味な留守電が入っていました。
メールには「電話して」「どうしたの?」「今どこ?」「何かあったの?」「大丈夫か?」「死ぬな!」「たのむ、生きててくれ!」の嵐。そして留守電には…


一件目~三件目
「もしもし、どうしたの?電話ください」

四件目~六件目
「大丈夫?連絡無いから心配だよ。メールでもいいから返して」

七件目
「心配で家を探したんだよ。住所知らないから、自転車であちこちぐるぐる走ったよ。死ぬな、死ぬなよ。たのむ、生きててくれ!

八件目
「うっ、ひっく、ズズズ…たのむ、生きててくれ、バカなことしないで。ケホッ!ううっ!」


電話をすると、その客は泣いていました。「無事で良かった!生きててくれてありがとう!」と言いながら。
私が「仕事中だから電話できなかっただけです。家を探すなんてことは二度としないでください」と、キッパリ言うと、更に泣きながら「俺ってバカだよね、ひっく、うえっ、ハハハ、ごめんね」と自分に酔い始め、震える声で「さよなら」と言い、電話は切れました。

そして、翌日さっそく店に来ました。客の目は真っ赤で、涙がにじんでいました。
仕事なので来たからには接客しますが、「バカなことはしないって約束してくれ」だの、「俺も一緒に死ぬ」だの、話の方向がとんでもない。話題を変え、どんな話をしても、「どうせ俺なんか」 

かと思えば、私が昼の仕事でミュージックビデオ用に書いたイラストを、「あれ俺でしょ?そっくりだもん!すぐわかっちゃったよ!」と嬉しそうに言うポジティブっぷり。
そんなわけないだろう…全然ちげーよ…


そして、翌日には「昨日帰り道でう〇こしたくなっちゃった」と、いらない報告。『う〇こ』と言えば笑うと思ったのか、あしらってもしつこく何度も言ってきました。小学生かよ。


客の妄想はどんどん広がります。
なんと、親兄弟や親戚だけでなく近所の人にまで、『彼女ができた』と自慢したらしく、「みんなすごい喜んじゃって、へへっ、でもまだ結婚は考えてないでしょ?」と言ってきました。

他のホステスにも彼氏面して、私のことを「俺の前では全然違う」なんて言いやがって、無断で動画を撮っていたことも発覚しました(同伴で食事した時に撮っていた)。



おぞましいから目を合わせないだけなのに、「あーっ、照れてるんだー」とニヤニヤするし、本名と家を探ろうとするし、先走り汁だか残尿だかのシミがあるジーンズを毎回履いているし、顔を擦りつけようとしてくるし、「人生どうでもいいからお金もどうでもいい」と言うわりには、大金を落としてくれるわけでもなく、私が一生懸命働いているのに「そんなに仕事しなくていいじゃん!」とキレる。
だったら金くれよ。


さすがに耐えられないので、店長に言って出入り禁止にしてもらい、一件落着です。
その後何度か接触しようとしてきましたが、彼氏に電話に出てもらったら、スッパリ連絡が来なくなりましたとさ。