前回、腰抜け野郎について書いていたら、ある人物を思い出したので、今回はそれを書きたいと思います。
高校時代に出会った、ノリ君。彼は、不良に憧れていました。


ノリ君は、誰がどう見ても不健康そうなもやしっ子
ですが、ヒョロヒョロした体を麻薬の影響で痩せちまったから、足を洗ったんだぜ」とアピールしていました。

ただの天然パーマを「やべー、パーマが取れてきちまったな」とアピール。
元々髪が薄いのを「小学生の頃から剃り込み入れてたから生えてはえてこねーんだよ」とアピール。
元々眉毛が薄いのを「ちょっと細くしすぎちまったか。一般人に怖がられちまう」とアピール。
とにかく、『ワルな俺ってかっこいいだろアピール』が凄まじかったです。


とにかくノリ君は、どうしようもない嘘ばかりついていました。以下が主な嘘です。

「暴走族の先輩が、絶対に誰も単車のケツに乗せなかったのに、俺だけは乗せてくれた」
「その先輩は死んだけれど、俺のことだけは認めてくれていた。形見の特攻服が家にある」
「俺が一声かければ三十分以内に五百人集まる」
「中学の頃、髪が全部銀色だった。暴走族の頭をやっていて、シルバーウルフと呼ばれていた」
「気合が入っていたので、昔の写真は笑顔が一枚も無い」
ヤクザの命を助けたことがあり、今でも一目置かれている」



そんなある日、私と友人は、ノリ君の家に遊びに行くことになりました。(特攻服やら昔の写真やら、証拠が見たくて)
ノリ君は「オヤジが帰ってくるとマジでやべえから、夕方までに場所変えようぜ。昨日も喧嘩で窓ガラス割っちまったから」と言っていましたが、無視。あえて夕方にノリ君の家に行きました。

ごく普通の綺麗な一軒家で、窓ガラスひとつ割れていませんでした
そして、ノリ君の部屋は、不良どころか小学生のようなかわいらしさ!綺麗に整頓されており、まるでニッセンのカタログに載っていそうな部屋でした。
スヌーピー柄のベッドや、洗いたてのシーツの匂いが印象的でした。


※イメージ図
snoopy


レゲエとロックしか聴かないと言っていたわりには、CDラックに平和な歌謡曲の背表紙が並んでいました。
私と友人は、形見の特攻服とやらが見たいと言いましたが、「見せちゃいけない掟があって、掟を破るとやばい」だの何だのと誤魔化されました。
昔の写真も、「後輩が欲しがるからみんなあげちまった」とのこと。


しばらく部屋で談話していると、ノリ君のお母さんがオレンジジュースとクッキーを持ってきてくれました。確かルマンドやエリーゼもありました。
ものすごく優しそうで、品の良さそうなお母さんは、「ノリ君と仲良くしてくれてありがとうね」と、にこにこしていました。
その上、「お夕飯、シチューでよければ食べていってちょうだい」と。

リビングに案内されると、お父さんがいました。これがまた真面目そうなお父さんでした。
苦しい!苦しいよノリ君!もう苦しすぎるだろうよ!


お父さんやお母さんが、「ノリ君は学校でどう?」「昔からノリ君はおとなしい子で」「ノリ君、すぐ風邪ひくんだからあったかい靴下履かないと」などと言うたび、ノリ君は気まずそうでした。
私は心の中で『こんな良いご両親がいるのに、シルバーウルフどころか嘘つきオオカミ少年になりやがって』と思いました。


そんな中、友人が言ってしまいました。

「ノリ君ってこうしてると暴走族の頭には見えないですよねー」

その瞬間、空気が固まりました。


お母さんは震えながら泣きそうな顔で「何?何なの?暴走族?」とオロオロ。
お父さんは「学校に不良がいるのか?むりやり何かやらされてるのか?」と険しい顔に。

友人は容赦なく続けます。

「ノリ君って、髪全部銀色だったんですよね?」

お母さんは青ざめた表情で口元をおさえながら、「えっ?どういうことなの?」と。
何かを察したお父さんは、「ノリ、ちょっとあとで話があるからあっちの部屋に来なさい」と。


私は、やさしい味のシチューを急いで食べ終えると、鬼畜な友人を連れて素早く帰りました。
友人は帰り道で大爆笑していましたが、私はご両親の気持ちを考えると笑えませんでした。むしろ大きな溜め息が出ました。


翌日学校で会ったノリ君は、「あれは本当の親じゃないから知らないんだよ。やっかいな事に巻き込まないために、俺は偽りの姿で暮らしているんだ」と言ってきました。
私と友人は「あー、そうなんだー」としか言えませんでした。

ノリ君は、どうしてこんなにほほえましいほど、不良に憧れていたのでしょう。
強くなりたい、強く見せたいと思った時、わかりやすく強さを感じるもの、それが不良だったから?
アイデンティティーを喪失しないように、自分を不良にカテゴライズして、安心したかっただけなのかもしれませんね。

まあ、そんなノリ君も、小学生に絡んで「生まれてきたことを後悔させてやろうか」と芝居がかったセリフを言ったことから、 全友人に見放されましたがね。